クリスマスオラトリオツアー後編 -チューリヒ、ゲント、オビエド、マドリード公演-


12月17日 チューリヒ Tonhalle Maag

12月19日, 20日 ゲント St. Pieters

12月21日 オビエド プリンシペ・フェリペ音楽堂

12月22日 マドリード 国立音楽堂

クリスマスオラトリオのツアーが無事終了しました。(ツアーの前編の記事はこちら)

最終日は、舞台をぐるりと取り囲む2000席を超えるマドリード国立音楽堂の客席が文字通り満席で、前からも後ろからも横からも上からも降り注ぐ拍手のシャワーを浴びながらツアーの集大成に相応しいフィナーレを締めくくることができました。マドリード出身でシュトゥットガルト在住の友人の帰省日とちょうど重なり、フライト直後で疲れていたであろう中、空港から直接コンサートを聴きに駆けつけてくれたのも僕にとっては嬉しい出来事でした。

アンサンブルのホームであるゲントでの公演も思い出深いものでした。ここではオラトリオを前半と後半の2日に分けて演奏しました。ツアーを通して演奏会場が教会だったのはここだけでした。入口付近にステージを組み立て、お客さんが祭壇に背を向けて座るというイレギュラーな設営がなされており、その結果我々演奏者は、真っ暗な聖堂で遥か遠くにライトアップされた祭壇に向かって歌うこととなりました。チューリヒ公演までのテノールソロはクリストフ・プレガルディエン氏の息子、ユリアン・プレガルディエン氏だったのですが、ゲント公演からはゲオルク・ポップルッツ氏がその役を務めました。彼の音楽表現は極めて個性豊かかつ興味深いもので、彼のエヴァンゲリストを聞きながら楽譜を追い、多くのことを学ばせてもらえました。(小さな本番なのですが僕も今週末にクリスマスオラトリオのソロを歌うのです。)

一方で、前回報告したブリュッセル・ケルン間の列車の運休に続いて、今回もまた移動で大きなトラブルに見舞われました。

スイスのチューリヒからベルギーのゲントまで、フランスを横断するはずだったのが、フランス交通機関のストライキにより、この旅程を変更せざるを得なかったのです。ドイツを経由するルートに変更して1時間伸び、そのドイツ国鉄が遅延して更に2時間伸び、やっとこさブリュッセルに到着したと思ったら次はベルギー国鉄がストライキしていてゲントまでの列車が走っておらず、急遽貸し切りの観光バスで移動することになって(これが出来るのが団体移動のメリットではありますが)更に30分伸び、もともと7時間半ほどだったはずの旅程を最終的に11時間もかけ、身も心も疲れ果てて日付けの変わる真際にようやくゲントのホテルにチェックインしたのです。

その日は2週間のプロジェクトにおいて唯一リハーサルも本番もない日でゆっくり休めるはずだったのが、移動だけで丸一日が潰れることになってしまいました。ブリュッセルで観光バスを待っている間、僕も遂に不機嫌さを隠すことができず、今回一番の若手だった26歳のテノールに「どう?移動楽しんでる?遅延しまくってるけど。」と皮肉交じりに聞いてみたんです。すると僕の不機嫌さに反し、彼は「楽しい!こんなに長くみんなと一緒にいられるもん。目的地に早く着いてもホテルで1人でいても面白くないしさ」と返してくるのです。早く到着してホテルでだらけたいなどと怠惰な期待を抱いていた己の愚かしさよ。ブリュッセルからゲントまで、旅程の最後の1時間をなんとか持ち堪えられたのは、彼の無邪気な笑顔のお陰です。

またその数日後には、ベルギーのゲントからスペインのオビエドへ、アンサンブルが手配した小型のチャーター機で飛びました。その日のスペイン上空の気流は酷く乱れており、フライトの最後30分は常時激しい揺れに耐え続けなければなりませんでした。飛行機のサービスで出される食事や軽食は、僕は必ず残さず食べきるようにしています。何故だか分かりますか?これが人生で最後の食事かもしれないと思うと、パサついたサンドイッチだろうがなんだろうが全て有り難く思えてくるからです。無論、それが最後になった試しはまだ無いのですが、このような乱気流に遭ったとき、どうしてこんな巨大な鉄の塊が人を乗せて宙に浮いていられるのかなどと思念し始めると、考えが極端なところまで行き着いてしまうのです。オビエドの音楽堂は、建物は大変立派な造りですが、スタッフさんもお客さんも極めて気さくな雰囲気でした。ステージに乗っている我々もリラックスして演奏することができたような気がします。土地柄ってそういうところにも表れるものですね。

モンテヴェルディのプロジェクトから連続で3週間半、8ヶ国12都市での公演が一つもキャンセルされることなく無事に終演し、家に帰ってきてほっとしています。一線で活躍する古楽のスペシャリストと共演させてもらいながらも、古楽への苦手意識がいまだに拭えない僕は反省と後悔の連続でしたが、いつまでもそんな甘っちょろいことを言っていられるわけではないので、今回学んだことを次の機会で活かせるよう精進し続ける次第です。

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