フリーランスの合唱歌手の生活② -放送局合唱団とフリーランスの合唱団-
前回の記事はこちら→ フリーランスの合唱歌手の生活① -プロジェクトとは-
フリーランスの合唱歌手の雇用主は大まかに2つに分かれます。1つは放送局の合唱団、もう1つはフリーランスのみで構成される合唱団です。
①放送局の合唱団
ドイツでは7つの放送局が専属の合唱団を運営しています。ベルリンに2つ、ハンブルク、ケルン、ライプツィヒ、ミュンヘン、シュトゥットガルトにそれぞれ1つずつ。各合唱団は、小さいところでは約20人、大きいところだと60人ほどの専属歌手を有します。専属歌手はいわゆる企業の正社員と同じ扱いで、一度選ばれると試用期間を経た後は定年退職するまで雇用が保証されています。
専属団員だけでは人数が賄えないプロジェクトの場合、我々フリーランスが助演(ドイツ語でAushilfeアウスヒルフェと言います)として呼ばれます。病欠が出た場合、極めて緊急に依頼が来る場合もあります。他にも専属団員が個人的な事情で(外部の演奏会に出演するなど)プロジェクトに参加できない場合、その団員から個人交渉で代役を頼まれる場合もあります。
僕は、現代音楽を専門に歌うシュトゥットガルトのSWR声楽アンサンブルと、後はハンブルクのNDR合唱団から定期的に仕事をいただいています。SWRでは右も左も分からぬ学生時代に1年間アカデミー(奨学金が出てプロの仕事に携われるインターンシップのようなもの)で学ばせて貰ったところから始まっているので、それ以来一番長くお世話になっている合唱団です。
②フリーランスの合唱団
ドイツをはじめ、ヨーロッパ諸国には放送局合唱団の他にもプロフェッショナルで活動する合唱団が数多く存在します。ごくごく小規模で一部の地域でしか活動していない団体から大きなスポンサーがついて世界的に有名なものまであり、いくつあるのか数えることはできません。また、古楽や現代音楽を強みとする合唱団、年齢層の比較的若い合唱団、ツアーの多い合唱団などなど、団体ごとに特色が見られます。
このような合唱団には企業の正社員扱いとされる「専属団員」はいません。それぞれの合唱団は独自のオーディションを開いており、そこで合格した人は団員になることができます。団員のリストに載ると、プロジェクトごとにキャスティングマネージャーがメンバーを選び、出演依頼をメールで歌手に送ります。多くのフリーランスの合唱歌手は複数の合唱団と提携しているため、依頼を受けても予定が合わない場合もあります。歌手は予定が合うならば出演を承認し、予定が合わなければ断ります。断られた場合、キャスティングマネージャーは団員のリストから別の人に声をかけることになります。このようにしてプロジェクトのキャスティングが決定します。
つまり、フリーランスの合唱団では、プロジェクトごとに乗っているメンツが全く違うということも起こり得るのです。逆に、方向性の似通っている合唱団の場合、全く離れた場所を拠点とする別の合唱団なのに同じメンツばかりが乗っているということもあるのです。
僕はこの2シーズンほどはベルギーのアンサンブル「コレジウム・ヴォカーレ・ゲント」で頻繁に歌わせていただいています。古楽の中でも特にバッハの解釈に定評のあるアンサンブルで、学生時代に古楽をないがしろにしていた僕には毎回のプロジェクトで目から鱗です。
あと、芸術祭ルールトリエンナーレを開催する団体が運営する合唱団コーアヴェルク・ルーアでも最近よく歌わせていただいています。この合唱団は現代音楽に力を入れており、近年のルールトリエンナーレではシュトックハウゼン、ヘンツェ、ベリオなどの大曲・難曲を演奏しました。
他には、シュトゥットガルトの国際バッハアカデミーが運営するゲヒンガー・カントライ、スイスの首都チューリヒを拠点にするチューリヒ・シングアカデミー、ベルリンを拠点に現代音楽に取り組むソリストアンサンブル・フェニックス16、オランダのユトレヒトを拠点とするオランダバッハ協会などなどにもお世話になっています。
....と短くまとめるつもりでしたがやはり長くなってしまいました。次回は、外国人にとっては重要なテーマ、滞在ビザについて書こうと思います。
コメント
コメントを投稿